NCS(NATO Codification System)とは
―国際的な防衛物資管理の共通言語
はじめに
防衛装備品の調達や維持管理は、国ごとに独自の方式で行われてきました。しかし、多国間での共同作戦や装備の融通が当たり前となる現代において、共通の仕組みがなければ物資管理に混乱をきたします。
この課題を解決するために整備されたのが NATO Codification System(NCS:NATOカタログ制度) です。この記事ではNCSの概要と、参加国の状況、日本の立ち位置について解説します。
1. NCSとはどんな制度か
NCSは、軍事物資の名称、分類、仕様を統一的に整理し、NATOストック番号(NSN: NATO Stock Number) を付与する制度です。
例えば、同じ部品が米国でもフランスでも製造されている場合、それぞれの国がバラバラに管理すると重複が発生し、在庫や補給が非効率になります。NCSはこれを防ぎ、「どの国でも同じ番号で同じ物品を特定できる」 ようにする仕組みです。
この制度の基盤となるのが、NATO標準化協定(STANAG)群です。
- ・STANAG 3150:補給分類の統一
- ・STANAG 3151:物品識別方法の統一
- ・STANAG 4177:技術データ取得の統一
- ・STANAG 4199:物品管理データ交換の統一
- ・STANAG 4438:NSNに関するデータ配布の統一
これらの協定を土台に、NCSは各国の防衛物流をつなぐ「共通言語」として機能しています。
2. 参加国と制度の広がり
NCSはNATO加盟国だけでなく、非加盟国にも広く開放されています。非加盟国は以下の形で参加できます。
- ・スポンサー国(Sponsored Nations):NATOの承認を受け、正式にNCSコミュニティの一員として参加。段階的にNCSへの完全加盟を目指す
- ・非スポンサー国(Non-sponsored Nations):NATO加盟国やスポンサー国との二国間協定を通じて限定的にデータを共有
このように、現在ではNATOに限らず、パートナー国や国際機関も含めた多国間でNCSが活用されています。NCSは「防衛物流のグローバル・スタンダード」となりつつあるのです。

3. 日本の状況
日本はNATO加盟国ではありませんが、防衛装備の国際共同開発や米国との装備品調達において、NCSの利用が避けられません。実際、日本はNCSに準拠した物品番号管理を部分的に採用しており、米国防総省との調達・補給業務ではNSNを参照することがあります。
日本は「スポンサー国」として正式参加しており、上級グループのTier2に属しています。そのため、NCSにおける実質的な権限はNATO諸国と同等と言えることからも、更にNATOや米軍との連携を円滑に進めるためには、国内でのNCS理解と運用体制の強化が重要といえます。
まとめ
NATO Codification System(NCS)は、防衛物資の識別と管理を国際的に統一するための制度であり、NATO加盟国はもちろん、多くの非加盟国も参加する国際標準です。
日本も国際共同開発や米軍との補給協力の観点から、部分的にNCSを活用しています。今後は、装備品の国際的な相互運用性を高めるために、より積極的な活用や国内制度との整合性確保が求められるでしょう。
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YOUSUKE HATTORI
About Me
1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。