NMCRLに掲載するためには?

update:2025/11/12

―掲載の条件と技術情報の取り扱い

はじめに

NMCRL(NATO Master Catalogue of References for Logistics) は、NATOカタログ制度(NCS)によって類別された物品情報を統合的に管理する国際的なデータベースです。

各国の防衛当局や調達機関が参照する「信頼できる物品情報源」として運用されていますが、すべての製品や企業が自動的に掲載されるわけではありません。

本稿では、NMCRLに掲載されるまでの過程、掲載の条件、そして企業側の技術情報の扱いについて整理します。

1. NMCRLは「契約実績に基づくカタログ」である

まず最も重要なのは、NMCRLは契約の結果として形成されるデータベースであり、任意登録制ではないという点です。

掲載対象となるのは、各国の軍や防衛当局と正式に物品契約を結び、供給実績を持つ品目のみです。

つまり、企業が自社製品をNCSに基づいて登録申請したとしても、契約に基づく調達・供給の事実がなければNMCRLに掲載されることはありません。

また、契約後に自動的に掲載されるのではなく、調達機関(すなわちデータ提供側)が当該物品を「適切な供給品」と判断した場合のみ、類別情報がNMCRLに反映される仕組みになっています。

2. NMCRLへの掲載プロセス

NMCRLに情報が掲載されるまでには、次のような過程があります。

  1. 1.物品契約の締結:軍・防衛当局など調達側が、供給企業との間で正式に契約を締結。
  2. 2.技術データの提供:企業は契約条項(CCC:Contract Clause for Codification)などに基づき、類別作業に必要な技術情報を提供。
  3. 3.類別作業の実施:提供された技術データを基に、各国の国家類別局(NCB)がACodP-1や関連STANAGの基準に従って物品を識別・分類。
  4. 4.NSN(NATO Stock Number)の付与:類別の結果、物品に13桁のNSNが割り当てられる。
  5. 5.NMCRLへの反映:NCBが承認した情報が各国からNATO担当局に送られ、NMCRLに統合される。

この流れの中で、調達機関が「類別情報として妥当」と判断したもののみが公開されるため、契約後であってもすべての物品がNMCRLに掲載されるわけではありません。

3. 掲載内容の性質 ― 技術データがそのまま公開されるわけではない

NMCRLに掲載される情報は、企業から提出された技術データそのものではありません。

提供データはあくまで類別作業に利用される内部資料であり、掲載される内容はそのデータを基にNCSの規則に従って整形・抽出された識別情報のみです。

具体的には、以下のような内容が反映されます。

  • 物品名・分類番号(NSC)
  • ・識別番号(NSN)
  • ・関連する参考番号(RN)とNCAGEコード
  • ・同等品や代替品の関係情報
  • ・登録国・管理国の識別情報
  • ・特性値情報

一方で、製品の構造図、製造工程、材料構成、試験データなど、企業が保有する詳細な技術資料(一次資料)はNMCRLには一切公開されません。

4. 非開示指定と企業の情報保護

CCC(Contract Clause for Codification:類別契約条項)では、企業は類別に必要な情報の範囲を明確に指定できるようになっています。

すなわち、企業側は提供する技術情報の中で、以下のようなものを「非開示」として扱うことが可能です。

  • ・試験データや条件、結果などの詳細
  • ・設計図面の機微部分
  • ・外部公開によって競争上不利益を被るおそれのある情報

この指定に基づき、NCBは非開示指定を尊重し、公開可能な最小限の識別情報のみをNMCRLに反映します。

したがって、NMCRLは企業の機密情報を直接掲載する場ではなく、類別作業によって生成された「識別結果のみ」を共有するシステムといえます。

5. 企業にとっての意味と留意点

NMCRLに掲載されることは、企業にとって大きな意義を持ちます。

  • 国際市場での信頼性向上:NMCRL掲載品は、各国の調達機関が「標準化された物品」として参照するため、国際的な認知度と信用性が高まります。また、製造能力自体も評価されることとなります。
  • 再調達・代替需要の拡大:他国の防衛機関が同一NSNを利用できるため、再調達や代替品供給の機会が増加します。
  • 調達参加の前提:一方で、掲載されるには軍や防衛当局との契約実績が必要であり、単なる自主登録では掲載されないという厳格な条件が存在します。

企業としては、CCCの理解と技術情報管理の明確化が、国際市場参入の第一歩となります。提供すべき情報と守るべき情報を整理し、契約段階での情報範囲を適切に指定することが大事となります。

まとめ

NMCRLは、NCSに基づく「契約実績を伴う公式な物品情報データベース」です。

掲載されるのは、軍・防衛当局との契約に基づき、調達機関が適切と認めた物品情報のみであり、企業が任意に登録できる仕組みではありません。

さらに、掲載内容は企業が提供した技術データを直接反映したものではなく、NCSの類別基準に基づいて生成された識別情報のみが収録されます。企業は、提供情報の範囲を指定することで、機密情報を保護しつつ国際調達の枠組みに参加できます。

すなわち、NMCRLは「信頼できる供給実績の証」であり、その掲載は単なるデータ登録ではなく、国際的な防衛サプライチェーンへの正式な参入を意味します。

YOUSUKE HATTORI

About Me

1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。

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