中小企業の国際参入モデルとNATOにおける機会

中小企業の国際参入モデルとNATOにおける機会

――多層的な壁をどう越えるか

1. 中小企業の国際参入を阻む「多層的な壁」

輸出規制、資金、人材、情報管理…。中小企業が国際市場に参入しようとする際、これらの多層的な壁に直面することは、共通の課題です。そしてこれは、日本以外の企業にとっても例外ではありません。

特に防衛・安全保障分野では、

「技術があれば売れる」

「良い製品であれば自然と見つけてもらえる」

という考えでは少々楽観的で、参入までの道筋そのものを設計できているかが問われます。

本稿では、中小企業の立場から見た国際参入の考え方を、目標・工程・課題という観点で整理してみたいと思います。

2. 大企業と中小企業では、国際参入の入口が異なる

まず前提として、大企業と中小企業では、国際参入のモデルが大きく異なります。

大企業や完成品メーカーの場合には、政府間での枠組みを通じて、装備品全体として取引が行われるケースが少なくありません。よくニュースなどで見かける最終製品については特にそのようなケースが多いと言えます。

一方で、中小企業の場合はどうでしょうか。中小企業の多くは、その製品単独で運用が可能となるような完成装備品ではなく、部品・コンポーネント・サブシステム・役務を提供しています。こうした場合には政府としても個別に後押しすることは難しく、場合によってはその製品に対する認識もおぼろげなものとなっている可能性があります。

そのため、こうした企業においては民間企業同士での接点づくりが極めて重要になります。

3. 中小企業の製品の特性

もう一つ重要な前提があります。中小企業の製品は、その製品単体で運用されるケースは多くありません。

実際には、

  • ・ある装備品体系の一部として
  • ・既存の運用体系に組み込まれて
  • ・他国製の装備やシステムと組み合わせて

使用されることがほとんどです。

つまり、中小企業が国際参入を考える際には、**「自社製品が、どの装備品体系の一部になり得るのか」**を意識する必要があります。まずは 欧米のどの装備品体系・運用体系に組み込まれる可能性があるのか を特定し、その上でアプローチを設計することが現実的だと言えます。

4. ここで有用になるのが「NCS」という考え方

こうした「位置づけの特定」において、有用な手がかりとなり得るのが「NATO Codification System(NCS、NATOカタログ制度)」です。NCSは、NATOおよびNCS参加国の軍で調達されてきた品目を、共通の分類体系で整理・収録した制度です。

この制度の特徴は、

  • ・各製品が用途別・機能別に分類されている
  • ・外観や形状、基本的な特性が説明されている
  • ・各国で共通のデータとして参照されている

という点にあります。

NCSは、単なる番号付けの仕組みではなく、「装備品を共通の言語で理解するためのデータ基盤」だと捉えると分かりやすいでしょう。

5. NCSを使うことで見えてくること

NCSを活用することで、次のような整理が可能になります。

  • ・自社製品が該当し得るカテゴリはどこか
  • ・どのような用途・運用を想定されているか
  • ・既にどのような品目が調達されているか
  • ・関連する装備品体系や分野は何か

これにより、「誰に向けて、どの文脈で営業すべきか」という対象の絞り込みがしやすくなります。実際、製造現場の感覚として、「世界的な競合企業はある程度把握している」というケースも多いでしょう。

そうした場合でも、NCSを通じて

  • ・競合製品がどのように分類されているか
  • ・どの分野・用途で使われているか

を客観的に確認することは、自社の立ち位置を再確認するうえで有効です。

6. ただし、制度を使うには“前提条件”がある

NCSを含め、国際的な枠組みに関与するためには、当然ながら 輸出入に関する法令や規則 を遵守する必要があります。日本の場合、代表的なのが 外為法(外国為替及び外国貿易法) であると言えます。

  • ・該非判定
  • ・輸出許可の要否
  • ・技術提供の扱い

など、専門的な判断を要する事項が数多く存在していますが、ここを軽視してしまうと、せっかく国際的な機会が見えてきても、実行に移すことができません。その意味で、中小企業の国際参入には、

  • ・技術理解
  • ・市場理解
  • ・制度理解

の三つが揃って初めて、現実的な選択肢になります。

7. 参考事例:ウクライナの政府ポータル「ZBROYA」が示す“入口設計”の力

中小企業の参入障壁を考えるうえで、示唆に富む事例としてウクライナの取り組みがあります。

ウクライナ国防省は、「ZBROYA」 というオンライン・プラットフォームを立ち上げ、武器・軍装備品メーカー向けの公的サービスや支援、実務情報を一つに集約しました。

国防省の発表では、このポータルは「メーカーにとって重要な政府サービス/機会に関する情報を一箇所で提供する」ことを目的としており、国家側と産業界のインターフェースを“見える化”する情報ハブとして位置づけられています。

ZBROYAのサイト上の案内からは、(動員・雇用に関わる)予約/保全の仕組み、融資(ローン)関連、部品・コンポーネントのライブラリ、試験(テスト)サービスなどを対象として、“メーカー向けの公的サービス・窓口”として構想されていることが分かります。

ここで注目すべきは、ZBROYAが「単に調達案件を掲示する場所」ではなく、

“参入する企業が最初に躓く論点(制度・資金・部材・試験)”を、入口に束ねている点です。

中小企業にとって最大の壁は、技術そのものよりも「どこを見ればよいか分からない」「正しい入口が見えない」という、多くの情報の霧の中を歩いているような感覚です。ZBROYAは、その霧を減らすための設計だと解釈できます。

8. 望まれるべきではない「起点」

もちろん、このような仕組みを「成功モデル」として手放しで礼賛すべきではありません。ウクライナの制度設計は、国家存立が脅かされるという極限状況が背景にあります。どの国においても、本来は「そうであってほしくない起点」です。

一方で、平時の制度設計として学べる要素もあります。それは、政府が産業界の活性化に向けて 「情報ハブ(入口)」を整備し、摩擦の大きい論点を束ねて提示する」 という考え方です。中小企業の国際参入でも、まず必要なのはこの“入口の見える化”であると考えます。

おわりに:中小企業だからこそ、構造を理解する意味がある

中小企業の国際参入は、決して簡単ではありません。

しかし、無謀な挑戦でもありません。

重要なのは、

  • ・どこを目指すのか(目標)
  • ・どの順序で進むのか(工程)
  • ・どこに専門知識が必要か(課題)

を整理したうえで、一つずつ取り組むことです。NCSのような制度は、そのための道具の一つにすぎません。

しかし、「自社製品を国際的な文脈でどう位置づけるか」を考えるうえで、非常に有効な出発点になり得ます。中小企業だからこそ、構造を理解したうえで限られたリソースをどこに集中させるかを考える必要があります。

国際参入は、その延長線上にあります。弊協会ではそうした取り組みを支援すべく活動を続けてまいります。

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YOUSUKE HATTORI

About Me

1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。

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