NSN(NATO Stock Number)の登録フローと実務活用

update:2025/9/24

― 国際調達の共通言語を使いこなす ―

1. なぜNSNが必要なのか

国際的な共同作戦や多国間での装備品調達では、「同じ物を同じ認識で呼ぶ」ことが極めて重要です。

例えば、ある国では「A12345」という部品番号でも、別の国では異なる型式名で呼ばれていることがあります。この違いは、補給の遅延や重複発注、在庫の膨張につながります。

こうした課題を解消するために導入されているのが、NATO Stock Number(NSN)です。

ACodP-1と呼ばれる”規則書”では、NSNを「軍需物資を一意に識別するための共通番号」と定義し、加盟国・パートナー国での統一運用を義務付けています。

2. NSNの基本構造

NSNは13桁の番号で構成されます。

  • NATO Supply Classification(NSC)コード:4桁 品目の分類(例:1005=小火器関連)
  • NATO Item Identification Number(NIIN):9桁
    • ・先頭2桁:NSNを割り当てた国のコード(NATO Code for NCB)
    • ・後続7桁:その国が付与する連番

例:1005-13-123-4567

(1005=分類コード、13=フランスのNCBコード)

ACodP-1では「各供給品目は一つのNSNで識別され、重複を避けること」と明記されています。

3. NSN付与までの流れ

NSNの付与は防衛省や自衛隊、および国外軍組織による調達が前提です。

軍需品、汎用品、デュアルユースであろうと納入された品目が基本的には対象となります。

NSNが付与されるまでには、以下のステップを踏みます。

1.設計・製造元(Design Control Authority)の特定

これは、品目の設計・仕様を管理する主体です。製造元が加盟国やTier 2国の場合、その国のNCB(National Codification Bureau)が担当します。

2.登録の責任者

登録業務ならびにNSN維持整備の責任は製造国のNCBにあることが原則ですが、非加盟国製品の場合は使用国のNCBが担当します。

3.必要情報の提出・整理

技術仕様書・図面を基に製品は類別されます。参考番号(Reference Number)やその分類は組織の識別子であるNCAGEコードとともに整理されます。

4.重複確認(Screening)

NATOで集約した各国製品データの含まれる、NMCRL(NATO Master Catalogue of References for Logistics)で既存NSNとの照合を行います。

5.付与・登録

新しいNSNが付与されます。NCBでは国際データベースへの登録がふさわしいか判断されたのちに、NMCRLを通じて各国が参照可能になります。

4. 実務での活用ポイント

調達・契約

契約書や発注書にNSNを明記すれば、発注先の解釈違いによるミスを防げます。

特に多国籍プロジェクトでは、仕様書や製品番号よりもNSNの方が通じやすい場面もあります。

在庫管理

企業や部隊の在庫管理システムにNSNを導入することで、各部品の国際的な共通コードとして機能します。

複数拠点での在庫照会や統合管理も容易です。

代替品・互換品の特定

ACodP-1では、互換性が確認された品目は同じNSNの元に集約されます。

これにより、海外ユーザーへの互換提案や納期短縮の検討が可能になります。

輸出入時の信頼性向上

国際的に認知されたNSNは、防衛装備や関連部品の輸出入において「認証済みの製品」であることを示す指標にもなります。

特に米国やNATO諸国向けの契約では、NSNが必須条件となることもあります。

5. 注意点

設計変更時は再登録

形状や性能に変更があれば、新しいNSNが必要になる場合があります。

限定的使用のNSN

一部のNSNは国家や契約条件により公開・利用が制限されることがあります。

付与に時間がかかる

必要書類の準備やNCBとの調整により、付与まで数週間〜数か月かかることがあります。

大型契約では事前準備が必須です。

機微情報の扱い

類別は技術仕様書や図面を基に行われるため、機微な情報の含まれる文書である可能性があります。

事前に機微情報を指摘することでデータへの反映を制限し、情報の公開を控えることが可能です。

6. まとめ

NSNは単なる番号ではなく、防衛・物流分野における「国際的な物資共通語」です。適切な取得と活用により、

  • ・調達の正確性向上
  • ・在庫の適正化
  • ・コスト削減
  • ・国際共同運用性の向上

といった効果が期待できます。

さらに、NMCRLやNCAGEコードと組み合わせることで、調達先の拡大や市場調査、技術照会など、活用範囲は広がります。国際防衛市場で競争力を持つためには、NSNを正しく理解し、業務プロセスに組み込むことが不可欠です。

YOUSUKE HATTORI

About Me

1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。

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