規格とは

update:2025/10/22

― 防衛産業における基礎知識と実務的な意義

はじめに

製造業においては、製品やサービスの品質、安全性、互換性を確保することが極めて重要です。そのために欠かせないのが「規格」、「標準」です。規格は単なるルールやガイドラインではなく、調達や生産、保守に至るまでサプライチェーン全体を支える基盤となります。

本記事では、防衛分野の企業にとって不可欠な「規格」とは何かを整理し、その種類、役割、そして更新性や相互参照といった規格の性質について解説します。

1. 規格とは何か

「規格」とは、製品やサービスに関して合意された共通の基準・ルールを意味します。ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)、各国政府が策定し、製品の寸法・品質・試験方法・安全性などを定めます。

防衛分野では、規格は次のような目的で利用されています。

・品質の保証:製品が一定の性能や安全性を満たすことを確保

・互換性の確保:異なる国やメーカーの装備品同士が問題なく運用できるようにする

・効率的な調達:規格を満たした製品であれば、各国の調達機関が安心して採用できる

・コスト削減:共通の基準を利用することで、重複開発や仕様の食い違いを防ぐ

2. 規格の種類

防衛分野で用いられる規格にはさまざまな種類があります。

国際規格

ISOやIECなど、民間も含めた国際的な標準。例として、品質マネジメント規格(ISO 9001)や環境マネジメント規格(ISO 14001)が広く用いられます。

国家規格

各国政府が制定する規格。米国のMIL規格(Military Standards)日本のJIS(日本産業規格)なども該当します。

NATO規格(STANAG)

NATO加盟国が共通運用のために合意した規格群であり、防衛物流や兵站に直結するものが多く存在します。NATOカタログ制度も、STANAGを基盤として整備されています。

企業内規格

メーカーや企業が独自に設定する規格。部品調達や生産管理で社内標準として利用され、外部規格と連携して品質を担保します。

3. 防衛産業における規格の役割

防衛産業では、規格は単に「基準」ではなく、国際的な信頼性やビジネス参入の鍵となります。

入札条件:多くの調達案件では規格適合が参加要件となる

・国際共同開発:複数国が同じ規格を参照することで共同設計が可能に

・輸出の円滑化:規格適合は海外市場での取引における信頼性につながる

・リスク低減:安全規格や品質規格を満たすことで事故や不具合のリスクを最小化

特に防衛装備は「一国だけで完結しない調達」が増えており、規格の理解と遵守が競争力の基礎となっていると言えます。

4. 規格の性質と改訂事例

規格は固定的なものではなく、更新され続ける動的な性質を持っています。社会情勢や技術の進歩、環境規制の変化に応じて定期的に改訂されるため、企業は最新の規格を把握し、設計や調達体制に反映させる必要があります。

代表的な例として挙げられるのが、米国防総省のMIL-STD-810(環境試験規格)です。この規格は1962年に初版が発行されて以来、気候条件や輸送環境の変化、計測技術の発展に合わせて複数回改訂されてきました。最新のバージョンでは「耐環境性試験」の方法が見直され、過酷な条件下での装備性能をより精緻に評価できるようになっています。これにより、企業は従来より高度な試験装置や検証体制を整える必要に迫られています。

また、規格は相互参照の関係にあります。MIL規格の中でISOの試験方法が引用されることや、NATO STANAGが国内規格に取り込まれることすら珍しくありません。規格は単独では完結せず、複数の基準が有機的につながっているのです。

さらに規格には階層性があります。国際規格 → 国家規格 → 業界標準 → 企業内規格という多層構造を持ち、上位規格の改訂が下位規格や実務に波及します。たとえばISO規格の改訂に伴い、MIL規格やJISの要求事項が変更されるケースもあります。

これらの性質を踏まえると、防衛産業の企業が取るべき姿勢は明確です。

  • 改訂情報の定期的モニタリング
  • ・相互参照の把握と整合性確認
  • ・社内規格の体系的管理

規格を「守るべきルール」と捉えるだけでなく、その変化に対応できる体制を構築することが、国際競争力を維持するために不可欠です。

まとめ

規格は、防衛産業における品質確保や安全性の担保にとどまらず、国際市場での信頼性確保や調達機会の拡大に直結する重要な基盤です。さらに、規格は更新され続けるものであり、相互に参照し合い、階層的に結びついているという性質を持ちます。

そのため、防衛関連企業に求められるのは「規格を知って守ること」ではなく、「規格の変化を先取りし、柔軟に対応できる体制を持つこと」です。これこそが、国際共同開発や輸出市場における競争力の源泉となるでしょう。

YOUSUKE HATTORI

About Me

1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。

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