類別とは

update:2025/9/26

―防衛分野から学ぶ共通言語の力―

はじめに

製造業や商社、さらにはサービス産業にいたるまで、グローバル化が進む今日のビジネス環境では、取引相手との「共通言語」を持つことが欠かせません。防衛分野における「類別(Codification)」は、その代表例です。複雑かつ国際的な装備品の流通や維持管理を円滑に進めるために確立された仕組みであり、NATOカタログ制度(NCS)の基盤を成しています。本稿では、類別の概要と、その大義や効果を民間企業の視点から解説します。

1. 類別とは何か

「類別」とは、物品を一定の基準に基づいて分類し、共通のルールで名前や属性を整理する仕組みです。

防衛分野では「NATO Supply Classification(NSC)」という分類体系が使われ、数百万点におよぶ部品・装備品を一貫性のある方法で分類します。これにより、ある国の「ボルト」と別の国の「ボルト」が同じカテゴリーで識別され、互換性や調達性が確認できるようになります。

一見すると単なる整理術に思えるかもしれませんが、実際には「共通の物資言語」を作ることに等しく、国際共同開発や多国間調達を可能にする基盤なのです。

2. なぜ類別が必要なのか

国ごと、組織ごとに独自の呼称や部品番号を使っていた場合、調達や維持に深刻な問題が生じます。

例えば、同じ仕様の部品が国によって異なる番号で管理されていれば、在庫が重複し、不要なコストが発生します。逆に異なる部品が同じ呼び方をされていれば、誤発注や事故につながります。

類別はこうした混乱を防ぎ、次の効果をもたらします。

  • 重複の削減:同じものを二重に在庫する無駄を避ける
  • 相互運用性の確保:多国籍部隊や共同開発において共通理解を保証する
  • 標準化の推進:互換性を高め、調達先の選択肢を広げる
  • コスト削減:在庫管理や調達コストを最適化する

つまり類別は、単にモノに番号をつける作業ではなく、「必要なものを、必要な時に、確実に届けるための仕組み」と言えます。

3. 民間企業にとっての意義

防衛向けの枠組みと思われがちな類別ですが、その考え方は民間企業にとっても有用です。

1.グローバル調達との親和性

国際規格に基づく分類により、複数国の調達仕様を一元的に扱える。輸出企業にとっては、海外顧客が安心して採用できる「共通言語」を持つことが競争力になります。

2.市場開拓の鍵

NATOや各国防衛省が採用する分類体系に準拠していれば、自社製品が国際的なカタログに登録され、潜在的な調達案件に参画できる可能性が広がります。

3.サプライチェーンの効率化

複数の取引先や海外子会社を抱える企業にとって、共通分類を活用することで、在庫の最適化や代替品の検索が容易になります。

4.リスク管理の向上

安全保障や品質保証の観点からも、誤認や誤発注のリスクを低減し、信頼性の高い供給体制を築くことができます。

    4. まとめ

    類別とは、単なる番号付けではなく「世界共通の物資管理の言語」を確立する営みです。その大義は、「必要な物資を、必要な場所に、無駄なく安全に届けること」にあります。この考え方は防衛分野に限らず、国際的に活動するあらゆる企業にとっても重要な基盤となるものです。

    類別を理解し活用することは、グローバル市場での競争力を高め、無駄を省き、取引先との信頼を強める第一歩となるでしょう。

    YOUSUKE HATTORI

    About Me

    1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。

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