NATOカタログ制度(NCS)とSTANAGの概要

update:2025/10/1

1. NCSとは

NATOカタログ制度(NATO Codification System, NCS)は、NATO加盟国および一部のパートナー国が共同で運用する物資管理の国際標準システムです。

軍や政府調達で扱う装備品・部品・資材を統一された名称で分類・識別・番号付け(NSN: NATO Stock Number)し、各国間で相互に情報を交換できるようにします。

NCSの目的は、

互換性の確保

・重複登録や在庫の削減

・補給の迅速化とコスト削減

・多国間運用における調達・補給の円滑化

に挙げられ、同一品に対して自国内および複数国で共通の認識として有することにあります。

なお、日本はNATO非加盟国でありながらも、所定の手続きを経て「Tier 2」と呼ばれるスポンサー上層国として参加し、NCSの枠組みを利用できる環境に置かれています。

2. NCSを支えるSTANAG

NCSは単独の規則ではなく、複数のNATO標準化協定であるSTANAG(Standardization Agreement)によって細部のルールや手順が定義されています。

特に重要なのは次の5つです。

1.STANAG 3150 – Codification: Uniform System of Supply Classification

  • ・米国のFederal Supply Classification Systemを採用したNATO補給分類システム
  • ・物資をグループ(大分類)やクラス(小分類)に分け、体系的な整理と検索を可能とする

2.STANAG 3151 – Codification: Uniform System of Item Identification

  • ・米国のFederal Item Identification Systemを基礎にした品目識別ルール
  • ・13桁のNSN構造(4桁の供給分類コード+9桁の品目識別番号)や、設計管理国が原則として類別する方針を規定する

3.STANAG 4177 – Codification: Uniform System of Data Acquisition

  • ・調達契約に「Codification Contract Clause(CCC)」を組み込み、類別向けに技術データを提供することを契約義務化
  • ・民から指定した機密扱い情報は政府間に限定して活用するなど規定する

4.STANAG 4199 – Codification: Uniform System of Exchange of Materiel Management Data

  • ・物資管理情報(例:品目状況、補給可否など)のデータ交換ルールを統一
  • ・設計管理国が利用国に必要な管理データを提供する原則を明記する

5.STANAG 4438 – Codification: Uniform System of Dissemination of Data Associated with NSN

  • ・NSNに関連するデータの配信方法を統一
  • ・各国のシステムが統一された基準でNSNデータを読み取れるようにする仕組みを規定

3. NCSとSTANAGの関係性

簡単にいえば、NCSは「何を・どう管理するか」という制度全体を指し、関係する各STANAGはその運用を支える個別協定です。

NCSが「システムの骨格」だとすれば、STANAGは「その骨格に沿って動かすための関節や筋肉」にあたります。

  • ・STANAG 3150・3151は「分類」と「識別」という基礎部分を担う
  • ・STANAG 4177は「データ取得」の契約的根拠を担保
  • ・STANAG 4199・4438は「データ交換と配信」の仕組みを整備

これらが一体となることで、各国が同じ言語・形式で物資情報を管理し、迅速かつ正確な補給を可能にします。

4. 非加盟国にとっての意義

NCS/STANAGの枠組みに参加することで、非加盟国や民間企業にも以下のようなメリットがあります。

  • 国際調達市場へのアクセス:NSNを取得できれば、NATOや各国軍の調達案件で自社製品を提示しやすくなる
  • ・在庫・部品管理の効率化:国内外で統一された番号体系を利用できる
  • ・輸出手続きの円滑化:物品特定における誤解や再確認の減少

特に防衛装備品や補給部品を輸出する事業者にとって、NCSへの対応は取引を有利に進めるための重要な材料となる場合があります。

5. まとめ

NATOカタログ制度(NCS)は、多国間の兵站・補給を円滑化するための「共通の物資管理言語」です。そのルールブックの中核をなすのが5つのSTANAGであり、それぞれが分類・識別・データ取得・管理データ交換・配信の役割を担っています。

防衛分野での国際的なビジネスや調達に関わる場合、この制度を理解することは不可欠となります。

YOUSUKE HATTORI

About Me

1985年東京都生まれ。一般社団法人日本類別協会代表理事。学生時代よりMILスペックをはじめとする規格分野に関わり、長年にわたり知見を積み重ねてきた。防衛装備庁へのNATOカタログ制度導入や2020年のTier2昇格に携わり、その後の本格運用を支援している。環太平洋NATOカタログ制度セミナーなど国際会議にも出席し、日本の同分野における国際的な連携と発展のため尽力している。

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