国際防衛産業をつなぐ“2年に一度のハブ“

国際防衛産業において、政府・軍・産業界の関係者が一堂に会し、最新の課題と将来像を議論する場が NATO Industry Forum（NIF） です。NIFは NATOが主催する公式フォーラムであり、2年に一度開催される官民連携（Public–Private Partnership）のイベントとして位置づけられています。

最新の軍事動向や調達制度のトレンドを議論するだけでなく、政府×軍×企業の“コネクション”（国際ネットワーク）を構築すること が最重要目的とされています。

1. NIFの基本構造：官と民を結びつける国際的フォーラム

NIFの主役は、NATO加盟国だけではありません。パートナー国（日本・韓国・オーストラリアなど）や民間企業も含む、広範なアクターが参加します。主な参加者層としてNATO本部・関連機関（D2IA、NSPAなど）、各国国防省・軍関係者に加え、大手防衛企業（欧米の主要プレイヤー）や国際機関はもちろん、スタートアップ・中小企業や研究機関・産業団体も参加されています。

筆者が参加した今回のNIFでも、参加者はおよそ200名規模であり、小規模だが“濃い”関係者が招かれている印象でした。国家や企業の経済規模にとらわれず、各者各様の立場で目的も異なるながらも、「リエゾン」の形成のためにあちらこちらで多様な言葉が交わされていました。

2. NIFは「議論の場」よりも「関係構築の場」である

NIFにおける最重要要素は、講演プログラムそのもののみではなく、“そこで顔を合わせる人々” です。もちろん専門性の高いセッションも複数用意されますが、NIFの本質は次の2つと言えます。

① 官と民の相互理解を深める場

• ・NATO・各国政府の課題
• ・民間産業界が直面する制約
• ・新技術分野の動向
• ・国際調達や標準化の最新状況

こうした情報を持ち寄り、外交・産業・技術が交差する場になります。

② リエゾン（人的ネットワーク）形成の場

もちろん、相互に上記意見交換を闊達に行うものではありますが、お互いに異なる国や立場で出席するわけですからその属性に沿った話題も多く触れることとなります。公式セッションの合間には、各所で会話が生まれ、イベントの外側まで含めて“リアルな外交資本”が形成されていく仕組みになっていました。

セッション中にもロビーでは多くの参加者がドリンクを片手に会話が持たれており、NIFの性質がよく表れていました。筆者も自身の立場や目的に加え、日本の最近の情勢（首相の交代や各国防衛予算増加傾向に対する傾向など）や会場までの航路など「普通の会話」を経て、人となりを示すことに時間を費やすことができました。

3. NIFの運営と参加プロセス

NIFに参加するには、事前に申し込みが必要となります。以下のプロセスが必要になります。

● 事前登録（Registration）

規定のサイトからプロフィールの登録を行います。更に参加費を支払い、申請を行います。

● 国ごとの参加枠（Quota）

各国ごとに参加上限枠が設けられていると見られます。一カ国からの参加者が規定数に達してしまった場合には制限が設けられるものと考えられます。

● NATO側の承認（Approval）

当然ながらフォーラムのセキュリティ要件が高く、NATOからの参加承認を得なければ参加ができません**。**承認後は主催者の指示に従うことでアジェンダやスピーカーなどを確認することができます。

今回、筆者は日本の民間産業界として初めてNIFに参加する貴重な機会を得ました。他国からは国軍・政府関係者・大手企業が多数参加している中、極東から民間団体としての参加は非常に珍しいケースと言えます。とてもありがたいことであったと感謝しております。

4. セッション構成：専門性 × 政策 × 材料提供

NIFのプログラムは、大きく以下の3つの柱で構成されます。

① メインセッション（中央ホール）

NATO高官や各国の副大臣クラス、欧米主要企業トップ層により特定のテーマに基づいたパネルディスカッションが行われます。「産業政策」、「最新技術動向」、「供給網」などを広く議論されていましたが、取り扱われるトピックからもNATOとしての関心が伺いしれて興味深くありました。

また、運営方法自体も最新技術が使用され、聴衆との質疑応答にも特殊な方法を用いていたことにNIF開催に対する協力組織の裾野の広さを感じました。

② テーマ特化型セッション（サイド会場）

分野を特化したテーマでのセッションが行われていました。これは招待制で且つ、同時進行で行われていることもあり、情報収集目的というよりは、純度の高い関係者を集めて相互の認識を合わせ、リエゾンを形成することを意図していると感じました。

③ オフィシャルレセプション（懇親晩餐会）

NIF初日の夜、今回はルーマニア国会議事堂にて盛大に開催されました。格式の高い場ですが雰囲気は非常にオープンで和やかに進み、国際官民が混ざり合い、伝統的な食事・飲料とともに楽しく会話を交わす貴重な時間でした。

5. NIFが重要な理由：NATOの今と未来が“空気感”として見える

NIFは学会や展示会とは違い、NATOの「現在の課題認識」と「未来の方向性」を生で感じられる場でした。当然、その時々で異なるトピックを扱い、広範に共通認識の形成を図りつつも深く議論で掘り下げるための場でもあります。NATOの動向を知ることや国際企業のプレゼンスを把握する、政策・調達・標準化の方向性を理解すること、これらを同時に幅広く得られる機会は多くなく、NIFは“2年に一度の大きな場”と言えます。

しかしながら、今回の参加を通じて筆者が強く感じたポイントは、会場では常に“話す人”が多く、セッション中でもロビーで議論が盛り上がるなど、欧米の特徴的な文化が見られました。また、極東からの来訪者にも門戸は開かれており、興味深くこちらの話を傾聴する姿勢を示してくれる点も非常にありがたいものでした。国際ネットワークを形成することも上記に強く付け加えたいと思います。

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